書評 「まちの風景をつくる学校」 森山円香著 晶文社2022/5発行 

 

●この本の舞台・神山町は、徳島県の中央部に位置する町である。

1955年、5つの村が合併し人口2万人の町としてスタートしたが、その後、人口は4分の1の5000千人までに減少し、一時は限界集落のレッテルを貼られた町である。その片田舎の町が、何と、ITベンチャー、サテライトオフィス等が集積する町に変貌し、今や、「地方創生の聖地」とまで言われるようになった。

そのきっかけは、町内への高速ブロードバンド網の整備だとか、IT企業のSansan社のサテライトオフィス設置だとか、「神山アーテスト・イン・レジデンス」を設立した神山町出身の大南信也氏の存在があるとか言われているが、そのあたりの経緯については「神山プロジェクト」、「神山プロジェクトという可能性」、「神山進化論」などの書籍に紹介されている。

 

●そんな神山町にも、新たな課題が生じている。

「先住者と移住者の二つに、町がパックリ割れている。神山町が神山町でなくなってきた。」、「今は成功例と言われ盛り上がっているが、近い将来盛り上がりが冷める時が必ず来る。その時、誰がどうするのかを考えないといけない。」これは、町を一度離れた後、神山町に戻り就職した女性の発言である。この女性のような思いを持つ人は多い。

 

●今回紹介する、森山円香著「まちの風景をつくる学校―神山の小さな高校が試したこと」は、こんな神山町に正面から向き合っている人々の記録である。

『いくら移住者が増えても、どれだけ企業を誘致しても、子どもたちが通える学校が地元になければ、次世代は育たない。地域から学校がなくなることは、何を意味するのでしょうか?学校は教育機関であると同時に地域の拠点です。地域から学校がなくなることは、既にいる人と土地、人と人とのつながりも薄れていくことを意味するのです。』

本書は、定員割れが続き廃校寸前だった県立農業高校の神山分校を再生しようとした女性と仲間たちの6年間の冒険の記録である。

単に過疎地の学校現場の物語ではなく、著者や地域の人々の苦悩と希望を通して、少子高齢化の日本社会のあり方や、学ぶとは何か、生きるとは何かについても論点を投げかけた力作である。

養老孟司氏は、この本を「未来の日本社会はこういう風にして作られていくに違いない。地味で、具体的で、明るい内容。」と評している。

 

●著者:森山円香

一般社団法人神山つなぐ公社理事・ひとづくり担当(2016年4月~2022年5月)。1988年岡山市生まれ。九州大学法学部卒。地域開発コンサルティングファームに勤め、神山町の地方創生戦略策定の支援業務に携わる。2016年から神山町に移住。              (2023.4 A.M)