時事コラム 「明智光秀とAI」

今年も雨に苦しむ時期となったが、河川の防災に関する話をする。

暴れ川とも呼ばれる「由良川」は、京都府・滋賀県・福井県の県境にまたがる三国岳を源として日本海にそそぐ長さ146Kmの一級河川である。河川長は、日本一長い信濃川の367Kmの半分弱であるが、その流域面積は、関西地域では淀川、熊野川に次ぐ広さを持っている。

 

この由良川は、中流、とりわけ「福知山盆地」で昔からたびたび甚大な水害をもたらしてきた。「福知山盆地」で、氾濫が多発するのは、この盆地特有の地形にある。川幅が狭く勾配が緩い、河口から約40㎞上流にあるにもかかわらず海抜は10mしかない。このため上流からの水はここで滞留しやすく、大雨で氾濫しやすい構造となっている。

 

戦国時代、丹波を平定した「明智光秀」は、福知山を洪水のない城下町とするため、堤防の構築や河川の付け替えなど由良川の治水対策を実施した。その堤防の一部は今でも「明智藪」(※1)と呼ばれて残っており、地元では治水事業を行った光秀を名君として語り継いでいる。明智藪の近くにある「御霊神社」の境内に、明智光秀の業績に感謝し、水害がおこらぬことを祈願するため、1984年神社が建立された。「堤防神社」という。堤防そのものが御神体という神社は全国でも大変珍しい。

 

さて、この由良川の治水対策に、現在、福知山市、福知山大学、MITが共同で防災研究に取り組んでいる。「AIを活用したクラウドソース型災害情報開発プロジェクト」というタイトルの研究だ。

具体的には、災害時に得られる情報を集約・アナライズするAIモデルの構築、その結果を一元的に表示するマップシステムの開発、防災の意思決定と情報提供のあり方の検討等である。(※2)

なぜMITがということだが、実は、3年前に何と米国名門大学のMIT側から共同研究の打診があったらしい。過去の氾濫頻度や地域の自主防災活動レベルなどにMIT・アーバンリスク研究所が注目し、福知山市に白羽の矢が立ったのだという。2021年に始動された共同研究は、今年、研究期間3年の最終年を迎える。近く研究の成果が公表されるのではないか。期待したい。

  

知将・明智光秀がおこなった治水対策を、今度は、大学、行政、市民が人工知能AIを活用して挑んでいる訳だ。

明智光秀(人)、堤防神社(神)、人工知能(AI)の三つどもえは興味深い。          

                     2023.6 A.M

(※1) 明智藪については、他説もあります。

(※2) MITとの共同研究は下記HP参照

    https://www.ryoutan.co.jp/articles/2021/05/91618/

   https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsai/37/4/37_413/_pdf

 

写真:左より、①御霊神社 「福知山観光協会」HPより、②明智藪 「まるごと北近畿」のHPより、③Mapion より編集加工