書評  「人新世(ひとしんせい)の資本論」 斎藤幸平著

 

話題の書のひとつ、斎藤幸平著の新刊書「人新世(ひとしんせい)の資本論」(集英社新書)はこの危機的な時代の資本主義社会に警鐘を鳴らしています。

人類の経済活動が地球に与えた影響があまりに大きいため、ノーベル科学賞受賞者のパウル・クルッツエンは、地質学的に見て、地球は新たな年代に突入したと言い、それを「人新世」(Anthropocene)と名付けました。

資本主義には持続的成長が不可欠ですが、しかし、それは地球を壊してしまいます。資本主義の進展は環境破壊を加速度化させ、サスティナビリティに乏しく、もはや時代遅れとなりました。

地球環境を守るというと節水・節電をして、肉食をやめ、中古品を買い、物をシェアするといった「自己的抑制」に焦点があたりがちですが、労働のあり方を抜本的に変えないと資本主義には立ち向かえないと著者はいいます。この本の最も重要な指摘は、労働の自律性を取り戻せということで、具体的には、(1)使用価値経済への転換、(2)労働時間の短縮、(3)画一的な分業の廃止、(4)生産過程の民主化、(5)エッセンシャル・ワークの重視−という五つが柱となり、「脱成長」の経済システムを確立することだと著者は言います。

このような労働のあり方への指針は人々の幸福を目的とした経済のあり方を示したもので、今後の世界での人類の共生にとって重要な方向性になると思います。

 

ひとりでも多くの方がこれらのことに意識を持つようになり、真に民主的な社会経済システムの構築を目指して労働の質を改革するとともに、それぞれができることで「脱成長」「使用価値重視」に取り組み、二酸化炭素濃度の右肩上がり具合が少しでも鈍化することを願うばかりです。

                        2021.4 清水治彦