書評「日本思想史」 末木文美士(すえきふみひこ)著  

                    岩波新書(2020年発行) 

西洋の哲学史などはいろいろ書物があるが、日本の思想史というのは通史になったものがこれまでなかった。本書は五世紀の古代から令和の現代に至るまで、日本の思想全体の流れとその座標軸を見取り図として描き出した貴重な一冊である。

「日本人は決して思想を疎かにして、いい加減に生きてきたのではない。それぞれの時代の課題に対して真剣に考え、自分たちの生き方を模索してきた。そのような先人の営みを振り返り、それを糧として、はじめて次の時代を築いていく大きな見通しを得ることが出来るのだ。」(「はじめにー必須としての日本思想史」より)

日本思想を時代別に個別に紹介するのではなく、その構造を大伝統、中伝統 小伝統としてわかりやすく(特にp9~p11に図示)説明している。また、王権と日本古来の思想、また中国などの外国から入ってきた仏教・儒教などの関係を明確に書き記している。

日本の思想を政治・経済・世相を座標軸として位置関係を構造的に捉えて書かれていることが、この著書の優れた所だ。

読み進むにつれて日本という国が世界の中でいかに特殊な思想体系で発展してきたのかが良く理解できる。大きな流れとしての天皇制と政権、神道と仏教、その座標軸の中での人々の生活習慣と文化学芸、これらの思想を通史として流れの中で読み取ることにより、我が国のより良い将来へのビジョンを描くことができるようになると思われる。

混迷する現代を見据え、地球環境改善への方策や少子高齢化社会への対策、平和主義と戦争への対応、天皇制の将来像などを模索する上で、この国の未来のために確認しておかなければならない必読の通史であると言えよう。

 

目次(一部詳細略)

第一章   日本思想史をどう捉えるか

Ⅰ 思想の形成〔古代〕 ~9世紀
第二章 日本思想の形成――飛鳥・奈良・平安初期
Ⅱ 定着する思想〔中世〕 1015世紀
第三章~第五章
Ⅲ 思想の多様化と変容〔近世〕 1619世紀
第六章~第九章
Ⅳ 世界の中の日本〔近代〕 1920世紀
第十章 日本的近代の形成――明治期
第十一章 戦争と思想――大正・昭和前期
第十二章 平和の理想と幻想――昭和後期
 

むすび                        2022.7 清水治彦