(オピニオン) 「DXとまちづくり」

 

●新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、DXが社会の喫緊の課題となっている。街づくりも例外ではない。交通、オフィス、医療、エネルギー、行政など、あらゆる都市機能をDX化する動きが進行している。DXとは、デジタル・トランスフォーメーションの略で、「IT技術を浸透させることにより人々の生活をより良いものへと変革させるという概念」であり、「価値観や枠組みを根底から覆し革新的なイノベーションをもたらすもの」と言われている。政府は、いわゆる「スーパーシテイ法」を成立させ(2020.5)、ITや規制緩和を推進し、DXを活用した地域住民、事業者、国が一体となった未来都市のショーケースを作ろうとしている。

このような動向の中で、「市民によるまちづくりの視点」から、いくつか気になる点がある。①情報は誰のものなのか?市民やNPOは果たしてDXを利用できるのか?②DXは監視型社会を招き、本当の市民の幸福に繋がらないのではないか?③DXにより市民参加スキームはどんな変貌を迫られるのか?等である。

 

●DXによる街づくりについて、アクセンチュア(株)の中村彰二朗氏が興味深い発言をしているので紹介したい。同氏は、アクセンチュア・イノベーションセンター福島のセンター長や会津若松スーパーシテイのアーキテクトとして、会津若松市をDXの実証フィールドと位置づけ変革を推進させるなど精力的な活動をしている。(以下はweb、シンポジウムにおける同氏の発言から抜粋)

・日本のDXは、「オプトアウト」方式でなく「オプトイン」方式で進めるべき

 街を住みやすい地域にするには、市民が自分の意思でデータを出し活用するオプトイン方式にすべきである。カナダ・トロント市のスーパーシテイ構想は失敗したが、これは民間企業(グーグルの兄弟会社)が市民未承諾の情報を使おうとしたこと(オプトアウト)が問題だったと言われている。日本では、データに対する日本人の感じ方、扱い方を許容するオプトイン方式の採用がよい。

・「三方良し」のルールをデザイン化する

 データは市民のものという前提にたち、市民、地域、企業の3つのグループ全てが恩恵をうける「三方良し」のルールをデザイン化することが必要。その時、周辺地域も巻き込んだ生活圏でデザインすることは是非おさえておくべきだし、APIでの地域間連携(※)、都市OSの標準化(※)も併せて重要である。

・プラットフォームの運営は市民中心となるべき

今後、アメリカや中国はGAFAやBATH()の巨大企業がプラットフォーマーとして運営し、日本や欧州は産学が連携し地域のプラットフォームを運営する形が主流になるのではないか。会津若松スマートシティでは、民間企業に直接データを預けるのではなく、産官学が参画する地元の法人が、市民中心で事業を推進していくという考え方である。

・市民との信頼構築の先にデジタル国家がある

デジタル・ガバメントが成功している国にデンマークがあるが、ここでは約20年で国民との間にデジタル化における信頼関係が構築できたという。エストニアでも同様の期間がかかったと聞く。日本では、情報漏洩、個人保護法の厳格運用等によりデータの活用、連携はすべきでないという風潮が広まっており、「デジタル敗戦国」の遠因にもなっている。重要なのは、政府と国民、自治体と市民の信頼関係の構築であり、それがDXの大きな前提になる。

 

●以上は中村氏の意見の紹介であるが、かなり頷ける所もあるしヒントにもなる。会津若松スーパーシテイ構想をPRするような引用になったが、大阪でも動きがある。会津若松は、ブラウンフィールド型(既存都市型)の街づくりであるが、同じくス-パーシテイに名乗りを上げている大阪では、夢洲・うめきた2期を想定したグリーンフィールド型(新規開発型)の街づくりを提案しているのが特徴である。指名合戦どうこうよりも、DXは社会や街づくりに大きな変貌をもたらす、DXにより市民にとって真にWell-beingな街づくりが実現することを望みたい。2021.11 A.M

 

※API地域間連携:自らのソフトウエアに他のソフトウエア機能を埋め込むことが、地域間で可能になる。

※都市OS:物流・医療・福祉・防災などの様々の新しいサービスを提供するための基盤。各都市間の共通化が課題。

※BATH(バース):BaiduAlibabaTencentHuawei(中国企業)の頭文字。