書評  Dignity(ディグニティ)

ヒックス,ドナ【著】〈Hicks,Donna〉/ワークス 淑悦【訳】/

ノ ジェス【監修】(幻冬舎)

 

「基本的人権」についてはよく理解しているつもりだったけれど、この話題の書を読むとDignity(尊厳)ということについて、これまで深く考えてみたことはなかったことを思い知らされ、反省させられる一冊です。

全ての人が生まれながらにして持つ「生命の尊厳」。その理解の促進と普及を通じて、あらゆる対立を克服するための方途を示してきた一人が、米ハーバード大学・ウェザーヘッド国際問題研究所のドナ・ヒックス博士です。2011年に発刊された『Dignity』は世界的な注目を浴び、邦訳『Dignity(ディグニティ)』が2020年2月に出版されています。

ヒックス博士の著書『Dignity(ディグニティ)』では、人生や人間関係の中で尊厳が果たす役割について明かし、尊厳の役割を、誰もが理解できるよう開発された「尊厳モデル」の「10の要素」や、反対に、尊厳の侵害につながりかねない要因が紹介されています。

私たちは、気付かぬうちに他者の尊厳を侵害していることがあります。故意にそうしているのではなく、どんな行為が相手を傷つけるのかを、理解していないからです。また一方で私たちは、相手の価値を認めることで、その人を幸せにすることもできますが、多くの場合、その力を持っていることを自覚していません。

日本国憲法は、「ひと」の尊厳を法の支配が守ることを定めており、「ひと」の魂の気高さにも触れることのできる人間学ともいえます。

 

内容説明

生まれながらの権利であるはずのDignity―“尊厳”。自らを、そして他者を傷つけ、傷つけあうようにできている私たち、人間。自分を愛し、人と幸福に生きるために必要なものとはなにか。新機軸の「Dignityモデル」で、理想的な人間関係を構築する方法を解説した、著者渾身の一冊。初邦訳で登場。

 

目次

第1部 尊厳の10のエレメント(アイデンティティを受け入れる;仲間に迎え入れる;安心できる場をつくる ほか)

第2部 他者の尊厳を侵害してしまう原因となる10の心理的誘惑(されたことをやり返す;面目にこだわり、虚偽や隠蔽に走る;自分の過失を認めず責任から逃れる;他者からの承認という偽りの尊厳を求める ほか)

第3部 尊厳によって関係性を癒すには(尊厳によって和解する;尊厳の約束)

 

著者紹介

ヒックス,ドナ[Hicks,Donna]

ハーバード大学心理学教授、Weatherhead Center for International Affairs所属。

Dignity(尊厳)とDignityが関係性の中で果たす役割について、初めて言語体系化した第一人者。英国BBCの「真実と向き合う」と題するテレビ放映シリーズで、ノーベル平和賞受賞者であるツツ大司教と共同でファシリテーターを担うなど、国際紛争解決の現場において、世界各地の対立関係にある共同体間の対話のファシリテーターを20年以上にわたり務める。また数多くの企業や組織には、自らが考案した「Dignityモデル」を適用した実践的コンサルティングも実施。『Dignity』では、Delta Kappa Gamma Society(1929年に創設され、北米、欧州、南米、日本で優れた女性教育者を顕彰している協会)の2012年教育者賞を受賞。現在ハーバード大学やコロンビア大学をはじめ、世界中でDignityを活用した対立解消法を学ぶコースの教鞭に立ち、Dignityの役割やリーダーシップに関するトレーニングやセミナーを世界中で展開中。                                       

                         2021.6 清水治彦