書評 「アフターコロナの都市計画」 石井良一著

コロナ禍は社会・経済に大きな変化をもたらしている。アフターコロナのまちづくりや都市のあり方に関しては、各所で議論されたり、書籍等でも取り上げられているが、石井良一著の「アフターコロナの都市計画」を紹介したい。

第1章に、アフターコロナ時代の都市の変化の5つのメガ潮流が示されているが、そこからピックアップする。(本書と内容と異なる箇所が一部あるかもしれない。)

テレワークとオフィスの変容

衆目が認めるように、コロナ禍でテレワークが大きな潮流として台頭してきた。キリンホールデング(株)の自宅ファーストプレイス、(株)パソナグループの淡路島へのオフィス移動など企業においても本格化の気配があるし、神戸市が六甲山の遊休化していた保養所を自然調和型オフィスに転換するなど、自治体の施策面にも動きがある。

そもそも都市の存在理由は「集積の経済にある」と言われてきた。テレワークの潮流は、都心へのオフィス集積という都市形態に疑問を呼びかけている。これに、eコマースという商業のネット化が加われば、都市計画の考え方が根っ子から変わる可能性がある。

注目される「15分都市論」

パリ市長が提言したことを契機に「15Minute City論」が世界中の都市から注目されている。例えば、メルボルン市は「20分生活圏、20-minute neighbourhood構想」を打ち出した。自宅から徒歩、自転車、公共交通機関で行ける範囲に、日用品店、カフェ、学校、病院、、映画館、図書館などのすべての施設があるのが望ましいという考え方である。

以前から、都市計画において複合用途地区という概念はあったが、コロナ禍により「15分都市」は「あったらいいな」から「叫び」に変わったと表現する人もいる。これまで住居専用地区、商業専用地区など用途の純化政策が進められてきたが、「15分都市論」は、近代都市計画が追い求めてきた単一用途主義の唾棄を意味している。

スマート工場化

アフターコロナ時代における需要の急激な変化や顧客の嗜好に対応し、グローバルで最適な生産を行うため、既存工場はスマート工場に転換する。また、研究機能、物流機能を併設し、クリーン化、ハイブリッド化した工場も数多く出現する。工場の概念が変わると、住宅地から工場を排除する従来の都市計画は変化が必要になる。

ワークスタイルとライフスタイルの融合

テレワークの普及と働き方改革の推進により、ポストコロナの新しい働き方としてワーケーション(WorkVacation)という概念が登場した。導入している企業は、日本航空、野村総合研究所等で、まだ多くはないが、和歌山県、長野県などの自治体が地方創生の観点から積極的に受け皿を整えると、ワークスタイルとライフスタイルの融合は新たな潮流となる可能性がある。関連して、旅(ツーリズム)の変貌も見逃せない。

都市のデジタルシフト

デジタルシフトの説明は省略するが、著者は都市モデルの行方を占うものとして、トヨタ(株)のWoven Cityに注目している。

 

 

本書では、このようなメガ潮流に対応すべく、アフターコロナの都市計画制度として、縦割り打破、地方分権による土地利用マネージメント改革が必要と提言されている。このColumnでは、その中から都市のメガ潮流を主に記載したが、著者のメインの目的の制度改革提言については別の機会に譲りたい。                   2022.7 A.M

※「アフターコロナの都市計画---変化に対応するための地域主導型改革」学芸出版社(2021.3著者:石井良一、国立大学法人滋賀大学教授、専門は都市計画、公共経営、地域産業政策。